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01
■ハンドル名:紅
■タイトル:やさしいいろ
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ミコトの赤はきれい。
何よりも赤くてきれいだから、どんな人混みの中でもミコトは見つけられる。だって、そこだけ凄く光って眩しいから。
 イズモの赤は強い。
 赤が強い、とかじゃなくて何処にいても同じ色と強さを持ってる。軸が、ぶれない。自分が揺れない。他の人に負けない強さを持ってる。
 タタラの赤は不思議。
 そんなに強いわけじゃないのに、タタラの周りにいるとみんなきれいな赤色になってく。弱気になってた赤色も、タタラの隣にくると強くなる。
 ミサキの赤は激しい。
 バチバチ音がなりそうなぐらい赤く揺れてる。赤色は安定してなくて焔みたいに燃えたり消えたりする。

サルヒコの、赤は。

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02
■ハンドル名:支倉こはな
■タイトル: Freesia
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「猿くーん、お願いがあるんだけどー」
「嫌です絶対嫌です」
十束さんの上機嫌な声に、俺は即答した。
何故ならその言い方は十束さんの趣味に駆り出される時によく使われる言葉であり、そしてその隣に案の定アンナの姿を見付け、俺は反射的に拒否していた。
「もう、話を聞く前から断らないでよ。今回は俺の手伝いじゃないよ。ね、アンナ?」
「…は?アンナ?」
十束さんに問われたアンナが、俺を見上げ頷く。
吠舞羅に入ってまだ日が浅いアンナは未だに十束さんや草薙さんや尊さんといることが多く、俺には滅多に近付いてこないが、何故か今回は俺をじっと見つめてくる。
「…何の用すか」
「ほら、アンナ」
アンナの真っ直ぐな目線から逃げるように目を逸らし、十束さんを見遣るとアンナの背を軽く押し、何かを促しているようだ。
そして十束さんと繋いでいた手を離したアンナは、俺の袖の裾をつまんできた。

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03
■ハンドル名:緋依絽
■タイトル:優しさの温度
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 アンナは焦っていた。
口は猿轡を噛ませられ、両手は後ろ手にされ縛られていて、少し動いたくらいでは緩みもしない。
それに少しでも妙な動きをすれば、周りにいる男たちに気づかれてしまう。
(…どうしよう)
 現在アンナは三人の男たちに拘束されていた。偶々一人でいた所を背後から襲われ、気づいた時にはこの場所に連れて来られていた。
「こいつが赤のお姫様か」
「ふ、これで吠舞羅のやつらも簡単に手は出せないだろう」
「ああ、今の内に手筈を整えるぞ」
 会話を聞くに、どうやら吠舞羅を敵視しているどこかの組織らしい。そしてアンナを使って吠舞羅を潰そうとしている。
(そんなこと、させない)
 アンナのせいで吠舞羅のみんなを危険に晒すなんて、絶対に。
 だが今アンナは身動きが出来ず、どうすることも出来ない。だからといって諦めたくない。

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04
■ハンドル名:TKM
■タイトル:綺麗な赤で描こうと思ったの 
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 バーHOMRAには、子供が触ってはいけない物が幾つか存在する。
 それはカウンターの棚に所狭しと並べられた酒瓶であったり、一脚何万とするようなグラスであったり、ガスコンロであったり。
 大半は店主の草薙が拘り抜いた商売道具。そして火を扱う場所から子供を遠ざけようという配慮。
 櫛名アンナは、特に疑問も不満も無く素直に首を縦に振り、言い付けを守っていた。
 しかし、最近どうにも気になる事が一つ…。
「…ったく、んで俺が店の売上計算なんかしなきゃなんねーンだよ」
 ぶつぶつと文句を垂れながらも、凄まじい速さでキーボードを叩く猫背の後ろ姿を、アンナはじっと見つめていた。
 店内のレジカウンターに常設されているノートパソコン。
 それを昼前に店へとやって来た伏見猿比古が、苛立ち紛れに操作していた。
 アンナのつぶらな瞳がじっと見る。
それはもう熱心に  …。

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05
■ハンドル名:翔
■タイトル: 日盛りの御守り
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随分と暑い日だった。
つい先日まで鬱陶しいくらいに降っていた雨は梅雨明けと共に消え去り、いよいよ夏本番とばかりに早速容赦ない日射しと高気温を叩き出した。
そんな日に限って〈セプター4〉の出動がかかる。迷惑この上ないストレインのおかげで長丁場となっていた捕り物も先程ようやく遂行された。
「くっそ…暑い…」
伏見猿比古は屯所へ戻る前に、自販機で飲料水を買っていた。
空調の効いた涼しい屯所へ戻るのは喜ばしいことだが、報告書やら何やらとデスクワークが待ち構えているのが目に見えているので素直に喜べない。とはいえあまり時間を潰していると、早く帰投しろと副長から催促の電話がかかる。世知辛い世の中だ。
飲み終えた空き缶をゴミ箱へ入れて歩き出す。面倒くさいことを押し付けられる前に戻らなければ。そう思っていた時だった。
横目にちらりと目についた、赤。
それが妙に気にかかって、確認するようにそちらを見る。


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06
■ハンドル名:瀬那ゆず
■タイトル: ふわりと翻る赤い華
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 普段はシンと静まっている夜の境内に、今宵は違った光景が広がっていた。参道の両脇に屋台が並び、石畳を歩くのは浴衣姿の者が多い。そこかしこに吊るされた提灯は穏やかな橙色の光で辺りを照らしている。
 夏の風物詩のひとつ、夏祭りである。
 鎮目町の一角にあるこの神社で催される夏祭りはそれなりに規模が大きく、たくさんの人で賑わう。境内に集った者は年に一度にしかないこの夏祭りを満喫していた。

 そんな華やかな賑わいから少し離れた場所で背を木に預けた伏見は、億劫そうな態度で腕を組んで溜息を吐いた。しかし現状は変わらない。
 たとえ普段の隊服ではなく甚平姿でも、帯剣していなくとも、今は仕事中なのだ。
 ――――なんでこんなことに……。
 事の発端である会話を思い出し、舌打ちが鳴った。

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07
■ハンドル名:新眞 珠蓮
■タイトル:知らない蒼に残る紅 
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夢を見た。
なんも変哲のない夢だったけどサルヒコもいた。
変哲のない夢の中で、私の知らない青という色を纏ったサルヒコは泣いていた。
赤しか写さない私の白黒の世界の中で、ほのかに残る私が好きな綺麗な赤を胸に残しながら。

サルヒコ…なんで泣いてるの?

吠舞羅にいたころのサルヒコは決して泣いてなかったから私は少し驚いた。この夢で初めて、サルヒコの泣いているのを見た気がした。
そしてすぐに愛用のビー玉をなぜか持ってなかった夢の中の私は、サルヒコに近づこうとした。
でもどんなに近づこうとしてもそれは叶わず、そこでイズモにミコトが呼ばれて目が覚めた。


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08
■ハンドル名:こころここ。
■タイトル: 砂の金魚
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猿比古が見つけたのは、奇妙に跳ねる赤い小動物だった。頭の上には、馬のそれのように銀色の尻尾が生えている。そうとしか言いようがない。
小動物は無造作に結われた髪を跳ねさせて、ガラスの向こうを見ている。背中には同じく適当に結ばれたとしか言いようのない、縦になったリボンが揺れている。
それがちょうど、コンビニエンスストアの前で二度三度、ぴょこぴょこしていた。どうやら似つかわしくない格好の着物の少女は、その中へ入りたいらしい。だが、重量が足りないのかセンサーの位置が高いのか、一向に努力は報われそうになく、ガラスの扉はくっついたままだ。
「ん……、もう、ちょっと……」
 息を切らせながら、もう一度ジャンプをしようとしている娘の後ろで、数秒眺める。銀色の尻尾がガラスの前で上下するのが、モップのようだ。モップにしてはきらきらと太陽光を反射するので、目に良くないが。
「おい、お前入りたいのに開かないのか?」
猿比古が声をかけると、赤い小動物はぴたりと跳ねるのをやめ、ゆっくりとこちらを振り返った。

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09
■ハンドル名:杞迎
■タイトル:ワクラバ 
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 東京法務局戸籍課第四分室、通称《セプター4》に所属する隊員たちは、まがりなりにも国家公務員という立場にある。対峙する相手が一般市民とは類の異なる異能力者であることを除けば、その職務は民間の警察組織と比べ大差はない。
 異能を持たない一般人では異能を駆使する能力者―ストレインと呼ばれる者と正面から相対するには力不足であり、同等以上の異能を持ちながら“正義”の側として立つセプター4は、国家にとって貴重な戦力であり抑止力だった。
 ストレインが起こす事件にはいつどこで、何が目的で、など理由に規則性はない。故にいざ事が起こった時、すぐに対処することが出来るよう、セプター4でも常日頃から情報収集の網を町中に張り巡らせていた。
 そんなセプター4の張った収集経路の一つに、とある通信が飛び込んできたのは先日のことだった。
 曰く、今週末の鎮目町夏祭りにて薬物の売買を行う、というものだ。


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10
■ハンドル名:yua
■タイトル: one day a tiny fairy tale / someday a sweet happy ending
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「…アンナ?」
透けるような銀の髪、滑らかな白い肌、深い真紅の瞳。全てが彼女の特徴と完全に一致しているのだが、どう見ても記憶の彼女とは視覚的な差異がある。赤と黒のゴシックドレスから覗いているしなやかな脚と腕。ただし大人が子供服を纏っているようでバランスが全く取れていない。そもそもバランス以前に生地が所々破れて白い肌が覗いてしまっている。見かねて脱いだ上着を肩に落とすと、アンナはふるりと震えて上着を羽織り直し、縋るように俺を見上げた。
「サルヒコ、ウサギ、逃げちゃった」
「……ウサギ?」
頭の上で両手を立て、「ぴょこぴょこ」と繰り返しながらパタパタと動かすのだが、そんなことで諸々の疑問符が消えるはずがない。
「……で?」
「キレイな赤い目のウサギ、つかまえた。そしたら時計が回って、まっくらになって、目が覚めた」
「……で、お前の身体がでかくなった、と」
「……うん」
「……」

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11
■ハンドル名:マノ
■タイトル:ショッピングモール
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「いい買い物日和だね!」
その日。
オープンして一ヶ月が過ぎ、そこそこ落ち着き始めたものの平日だというのにそれなりの人で溢れるショッピングモールに、テンションの高い……いや、いつもと寸分違わぬ十束多々良と。
「人、いっぱい」
心なしか頬が上気し、数店舗前に買ってもらったぬいぐるみの袋を腕に下げた櫛名アンナ。
「だからと言って、営業開けでお疲れモードなバーのマスターを朝から引っ張り出すとはええ度胸やな」
うっすらと目の下に隈を作った草薙出雲。
「ショッピングモールってどうしてこう車がないと不便な郊外にあるんだろうね!」
「土地代がかからないからでしょう」
そして不機嫌なのが、一人。
「もー猿くん顔こわいこわい。折角ショッピングモール来てるんだから、もう少し楽しそうな顔しようよ〜」
「それが散々人を連れ回した後に言う台詞ですか」
伏見猿比古は不快を隠そうともせず、舌打ちをし眼鏡の奥で眉を顰めた。