ハッピー・ファニー・バレンタイン by otomi
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 事務所宛に所属アイドルへのチョコが山のように届いていたらしいその日、ちょっと押し気味だった番組収録の最後は、拍手と共に贈られた花束で飾られた。バラのイメージしかなくて、という言葉と一緒に受け取った艶やかな赤い花を受け取ったオレに、「今日はどんな素敵な女性のもとへ?」とおどけた声が問い掛ける。「そう簡単に喋ると思った?」と返せば、周囲からくすりと笑いが漏れた。


不器用バースデー by くろまる。
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「…あ!」
 バラエティ番組の収録前。用意された楽屋で雑誌を読んでいた翔は、突然の大声に驚き顔を上げる。
 一体何事だろう。慌てて振り返れば、当の那月はじっとカレンダーを見つめたままブツブツと何かを呟いていた。
 面倒ではあるが、このまま放置する方が後々大変なのだと翔は経験上知っている。思わず吐いたため息は、二人きりの楽屋にやたら大きく響いた気がした。
「…おい、那月?」


君との変化。 by 有沙
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 この関係が始まったのはいつからだったろうか。始まりなんてもう覚えていない。気がついたら始まっていたのだから。
 彼女、渋谷友千香と関係を持ち始めた日を覚えてはいない。だが、ただの顔見知りから徐々に関係に変化が見え始めたときのことくらいは覚えている。


ブラッド・アンド・サンド by ナカシマクロ
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 気持ちを伝えるにはぴったりの日。言い換えれば相手に自分の本心をチョコレートなどとともにぶちまける都合のよい日に神宮寺 レンは生まれた。
 街を歩けば、かわいらしいハートの形のピンクのイルミネーションやらラッピングがさも当然のように居座り、想いを通じあったカップルが仲良くこの幸せをずっとかみしめていたいと言わんばかりに二人分の幅をとりのんびりゆっくり歩くため、一般の通行人の邪魔となる。


ハニーをプレゼント by rk
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 今日の午後にラボに来て、と嶺二が言うから。
 素直に来てみたら、そこには愛しのハニー、春歌がカプセルの中に入っていて、レンはぱちぱちと目をまばたかせた。
そのすぐそばにいる嶺二と博士がにこやかに笑いながら手を振っていて、藍は無表情のままこちらをじっと見据えている。…。なんだこれは。  「……えーっと、一応聞くけど、それは何かな?もしかして本物のハニーじゃないよね?」


そこ、オレの場所だよ? by らっこ
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 ふぅふぅ、と手に息を吹きかけながら部屋に帰ってくると、中からぱたぱたとこちらに向かってくる足音が聞こえた。慌てているのかな。それとも浮かれているのかな。今日もオレのレディは大忙しだ。
「ただいま」
「おかえりなさい!神宮寺さん、聞いてください!今年のバレンタインはお仕事おやすみでいいそうですよ!」


ヴァレンティヌスの使者は言祝ぐ by 歌鳴
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 今日もまた、いつものオフと同じ、遅めの起床時間だった。三人の部屋を見渡しても、オレ以外の気配はない。ランちゃんは新曲のレコーディング、聖川の奴は雑誌の取材。そしてオレはオフ。
 ゆっくりと車を走らせて、遅めのブランチにでもしようか。ぼんやりとした頭を少しずつ覚醒させながら、身支度を整える。


Cloudy,fine later by 小東れい
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 誕生日には良い思い出が無かった。親との厄介な確執の所為で、昔は何とも呪わしく寂しい一日に思えたものだ。成長すると、誰からも祝福されないなんてことはなくなったが、恋愛に良く絡むイベントにぶつかっていることもあって、煩わしさは数段上がった。『家柄に見合う豪華なお返しを目当てにしたプレゼント』なんて碌な物じゃない。そもそも二月十四日と言えば、という菓子が自分は苦手だったりもする。


しあわせのしくみ by sara
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 学生寮の談話室で膝に肘をついて座り、俺は首を傾げていた。目の前には楽譜とにらめっこをするレンの姿だ。
 軽く後ろで結われたオレンジ色の長い髪、その隙間から見える黒いピアス。寒い季節でも見える肌、垂れ目がちの目、俺よりも少し細い指。一つ一つを見て、俺はまたうーん、と首を傾げた。どれ位前からだろうか、俺はこの動作を何度も繰り返している。
 どうしようかな、もうすぐなんだけど。
ちらりとレンを盗み見ると、ぱさりと楽譜をテーブルの上に置くところだった。あれ、楽譜はもういいのかな。瞬きをすると、レンが口を開いた。


ひとひらの叙情 by 夏実
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リューヤさん、と不意に柔らかな声音で呼ばれ、林檎と取り留めの無い話をしながら学園の無駄に広い廊下を歩いていた龍也は立ち止まる。後ろを振り返れば、今朝も風花が舞っていたというのに相変わらず胸元を大きく開けた寒々しい格好の神宮寺レンが微笑を浮かべながらそこに立っていた。
「丁度良かった。今、職員室まで行こうと思っていたところなんだ」
「どうした、何か用か?」


My strawberry!! by 松子
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「……39.8℃。完全に風邪ですよ、ダーリン。」
体温計を見て心配そうに視線を落とす春歌の不安を吹き飛ばすように大丈夫だよ、と笑う。
「最近早朝と深夜遅くまでのドラマの撮影が続いていたから体が馬鹿になっていたのかもね。熱のわりには体は辛くないんだけど。」
「でもちゃんと休まないとダメです。今日のお出かけは中止にしましょう?」
「……残念だけど仕方ないか。了解だよ、ハニー。……っと、今はキスしちゃいけないんだっけ。危ない危ない。」


足跡メロディ by イツミ
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 七海春歌は喫茶店でひとり唸っていた。目の前にはとうに冷めたフレーバーティと、鉛筆のころりと転がった開かれたままのメモ帳。ヴン、と振動でメールの着信に気づき、画面に出ている日付を見つけてまた唸る。新年が明けて、もう二週間が過ぎてしまった。
 約一ヶ月後に迫った恋人であるレンの誕生日に、春歌は何をプレゼントするべきかを悩んでいるのであった。財閥の御曹司とアイドルという肩書きだけで、彼は欲しいと思ったものは自分でほぼ買うことができる。服や香水、CD、アンティーク小物、思いつくものは全て却下となった。メモ帳のページは真っ黒になるほど物の名前で埋め尽くされ、それらは上から丁寧にバッテンが付けられている。