おおわしはゆめみる / 英米


鈴本さんとの合同誌。
外道鬼畜な英×可哀想な米がテーマ。

蛸:独立戦争で負けた米を白い部屋に監禁する英の話
鈴本:自分のせいで傷つく米で楽しんでいる英の話


■■蛸




■■鈴本

 人と人が付き合うにあたり、まず大前提となるのはお互い好き合っているということである。それは「  人」とも呼べるが「  国」とも呼べる、そんな存在である彼ら―この場合に於いてはイギリスとアメリカのことだ―にも同じことである。

 イギリスはアメリカが好きだった。
アメリカはイギリスが好きだった。
 
想い合っていることをイギリスは知っていた。 
想い合っていることをアメリカは―

アメリカは、知らなかった。

アメリカがありったけの勇気を、もうどこにも残ってないと断言できるほどに振り絞って伝えた愛の告白を、イギリスは「  そうか」だけで終わらせてしまった。拒絶はされなかったが、受け入れることすらされなかったのだ。これでは自身に芽生えた恋を育てることも枯らすことも、どうにもできまい。アメリカはめげずに、懸命に愛を伝えようとしたがイギリスはそれを見て見ぬ振りをした。何故って、イギリスにはある思い付きがあったからだ。そしてもう一つ、ただ純粋に面白いなと感じたことが理由である。

 アメリカがイギリスに告白をしてから変わったことがある。お察しの通り、あまり良くない変化だ。物凄く端的に言えば、イギリスの最初からあまりよくない性格が、更に悪くなった。アメリカから好かれているという有利な立場をフル活用しているのだ。

例えば、こんなことがあった。

 上司の付き合いで、全く興味のない宝石店にアメリカが立ち寄ったときの話だ。なんでも結婚指輪を失くしたとかで、それを奥さんに責められ新しくペアリングを買うことになったらしい。まったく、我侭な奴だよ。―そう上司は鬱陶しそうに話したが、声は喜びで弾んでいた。「  俺の妻は、俺をこんなに好きでいるんだぞ」と暗に言われているようだった。
 頭のてっぺんがどれだけ薄かろうが上司は上司だ。アメリカは「  君の惚気なんて聞きたくないよ」と言いたい気持ちを抑え「  良かったじゃないか。今度会わせてくれよ」と相槌を打った。
 付き合いと言っても指輪を選ぶのは上司で、勿論会計も上司だ。連れ出されて来たものの、アメリカは暇を持て余していた。店員に「  貴方も何かお探しでしょうか」と訊ねられたが、自分はただの付き合いだと素直にそう告げるとごゆっくりご鑑賞下さいねと言い残し離れていった。そう広くはない店内をぐるりと一周させるように配置されたガラスケースから覗く宝石たちは成る程、確かに「  ゆっくり鑑賞」する価値のあるものだった。
 普段宝石など見る機会のないアメリカは、上司の存在を忘れてガラスケースの中の輝きに夢中になる。

「  あ、これ…」

 そこでアメリカは翡翠色に輝く石を見つけた。
 深い緑がイギリスの瞳のようで、アメリカは一目でそれを気に入った。店員を呼び(  ちなみに先ほど声を掛けてきた店員と同じ人だった)話を聞くと、今の原石を磨き上げた状態から自分の望むアクセサリーへ加工してくれるらしい。イギリスはフランスやイタリアと違い私服のときでも指輪やペンダントを身に着けない。そのことを知っていたアメリカはタイピンに加工してもらうよう頼んだ。三日後に自宅へ届けられた完成品にメッセージカードを添え、イギリスの元へ送った。次に会ったとき、あのタイピンが彼の胸元にあれば嬉しいのだけど。―そんな純粋な思いも一緒に詰め込んだ。

 そしてアメリカは悲しみに出会う。

 自宅のポストを覗くと、何通かの手紙と共に小さな小箱が投函されていた。ポストから取り出し差出人を見るとイギリスからだった。それを確認したアメリカは、何故だろうか、嫌な予感しかしなかった。これを開けたら駄目だ、きっと俺は後悔すると強烈に感じた。しかし中身を確認しないことには何も始まらないので、アメリカは観念して蓋を開けた。

 小箱を手に取ったときから既に泣きそうな顔をしていたアメリカの目から一筋の涙が零れた。それを皮切りに、ぼろぼろと涙が流れ出す。中身はアメリカが直感した通り、少し前にイギリスの元へ送ったばかりのタイピンだった。