2009.11.01. スパーク
私のアナベルリーへ■東1 オ68a


アメリカ白灯蛾 発行:私のアナベルリーへ
※通販案内はこちらのサイトより

■Thanks guests!

:足立+主人公
:足立+主人公+花村




■ヒトリバコ御伽草子

薄暗く、湿っぽく、錆びた鉄の匂いのする世界へようこそ。
・抜歯の話:足立+主人公
・一匹の子ヤギと狼と漁師の話:足立+菜々子
・足立が犯人ではないけれど事件が起きる話:足立と愉快な仲間たち
・堂島さんのお誕生日の話:足立+堂島

▼サンプル







■僕は知らない

 濡れ衣という言葉の由来は知っているかな。……そうだね。服が乾いたら無罪、乾かなかったら有罪という裁判のやり方から由来しているっていう話もある。でも僕が知っているのはそれじゃない。
 昔、先妻の美しい娘に嫉妬した継母が夜中に娘の枕元に漁師の濡れた服を置いたという。それを見つけた父親が漁師と娘の関係を疑って娘を殺しちゃったらしいよ。なーんで殺したりしたのかな。娘が大事なら普通殺すんだったら漁師の方じゃない?昔の人は何を考えているのかわっかんないねぇ〜
 あ!山野アナだ!かわいいし美人だよね彼女。ほんと僕のタイプだ。あ〜あ〜事件か何か起きてお近づきになれないかな。そうそう、話は変わるけどこの間さ神社から――――――
 
 
 念願叶って事件が起きた。山野アナに近付ける機会も得たし今がまさにそう。彼女は目の前にいる。
 でも僕は裏切られた気分だ。山野アナと生田目が浮気関係にあるという報道があったから(その喧騒から逃れる為に警察はこの天城旅館で彼女を匿っている)本当かどうかを確かめようと個人的に彼女を呼んだ。報道が嘘であって欲しかったんだけど、山野は肯定も否定もしなかった。つまり、事実ということか。
 せっかく目をかけてやったというのに、なんて女だ。僕はこういう思いあがった女は嫌いだ。少し怖い目に遭わせてやろうか。
 僕がゆっくり近付くと山野が怯んだ。ぎゃあぎゃあ騒いでいるが無視をして掴みかかる。あいつは抵抗するけど所詮男女の体格差とか腕っ節の強さで僕には効いていない。弱いなぁ。そのままテレビに押し付けて怖がらせようと思った時、ふとテレビの噂を思い出した。 " 真夜中の零時にテレビに触れると向こうの世界に行ける。"
 試してみようか、と冗談半分に思ったけど残念ながら今はまだ二十三時を過ぎたばかりなことを思い出した。まぁ、そんな御伽噺みたいな噂を本気で実践するやつはバカぐらいだ。なんて考えていながら山野を押し付けようとしたら、思った以上にテレビとの距離があって山野が止まらない。あれ、おかしいなと思ったら山野が消えた。えっ、と声を出す暇もなく腕が引っ張られてテレビが目の前に迫った。
 ぶつかる! しかし堅い感触はなくむしろ僕はテレビの画面を貫いた。え?何これ?どういうことなの?初めて赤ずきんと健康を見た時のような気分だよ。お分かり頂けただろうか?
 でも疑問なんて考える時間もなくて気付いたら黄色と黒の模様の中を落下して行っている。ほんとに何なのこれありえねぇ。でも有り得ないことは有り得ないって何処かのグリード様が言っていたっけ。
 黄色と黒の空間が終わるとドサッと地面に叩きつけられた。
 「いってぇ〜……」
 起き上がったら周りが霧まみれ。そんなに濃くはないから瓦礫とか道とかはぼんやりと見えるけど、まじでここは何処?僕は誰?夢でも見てるのかな?あ、頬が痛い。
 とにかく今この状態は信じられないことに現実で信じられないことに僕はテレビの中にスイッと落ちたみたいだ。
 腕時計を見ると二十三時十分だ。噂は零時だろ零時。噂は噂通りに起こってよね。もうヤダ帰りたい。主人公になんてなりたくないからすぐには理解できない状況なんていらない。普通の人生の普通のハッピーエンドでいいです。
 すると視界でモゾッと何かが動いた。こういう時ってゲームや映画だと確か化け物が出るのが定説だよねちょっと勘弁して下さい今銃は部屋にあるんだよ!
 「……なに、ここ?」
 「ひぃぃぃっ……てあれ?」
 よく見たら動いたのは山野アナだった。そうだ山野をテレビに押し付けたんだからあいつも落ちたんだ。一人じゃない。
 「え?…ってちょ、何であんたまでここにいるのよ変態!」
 「いや、だってそっちが僕を引っ張ったからでしょう。むしろこっちは巻き込まれたんだから謝って欲しいくらいなんだけど」
 「は!?あんたが変なことするからこうなったんでしょ!」
 それもそうでした。しかしそれにしてもさっき感じた怒りが嘘みたいになくなって今山野をどうこうしようとする気がない。それに何で否定されなかったからってあんなに不快に思ったのか分からない。今だって変態と罵られても納得するし、仕方ないよなって思う。何だか無理矢理怒るように仕向けられた気分だ。
 僕は改めて周りを見渡した。何度見ても全っ然知らない場所だ。不気味。それにここに来てから胸の奥が妙にざわつく。何かがここに現れそうな、招かれざる客というか、会いたくないやつに会ってしまいそうな、そんな予感。とにかくこんな場所、金をもらっても長くは居たくない。